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サダム・フセイン 『悪魔のダンス』 徳間書店 [本の感想系]

悪魔のダンス

悪魔のダンス

  • 作者: サダム フセイン
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 単行本


bk1は【こちら】

 原題『くたばれ裏切者』。

 帯にあるように日本での日本語による出版が世界で初めての刊行である。それはヨルダンでのアラビア語版が発禁となったことによる(海賊版は出ているという情報もある)。

 発刊当時NHKの番組に生出演した翻訳者はアナウンサから「本当にフセイン本人が、しかもアメリカのイラク攻撃直前という絶妙のタイミングで書き上げたものなのですか?」と聞かれ、にっこりしながら「ええ、わかりません」と答えていた。でも翻訳の許可をフセインの娘に電話で求めたとき『あなた。私のお父さんが書いたものなのよ。だから心してしっかり訳すのよ』と言われたこと、フセインの部下が夜中フセインの執務室に顔を出すとフセインがひっそりと何かカリカリ一生懸命に書いているのを目撃したと語っていたことなども紹介してくれた。

 アッラーのもと、部族と部族の信頼関係から形成される社会に、金が大好きな一人の裏切者が現れ、「超大国」ローマの庇護を受け成り上がる。やがて金とその支配力よりもアッラーの教示に忠実な主人公たちと裏切者は対立し、紆余曲折を経て、当然のことながら、アッラーの忠実な僕が勝ち、裏切者・外者は敗れ去る。

 ‥‥表面的にイスラムの黎明期を舞台とした物語は、直截的な隠喩として現在のアメリカとアラブとの対立関係を真の舞台としている。イスラムを前提とした勧善懲悪の物語はハリウッド映画とはまた違った爽快感に溢れている。

 日本の近現代の作家が書く文章ではなく、ちょっと昔の、あるいは完全に翻訳調の文章であり、内容も寓話や説話的なのでとっつきにくい部分もある。しかし「大量破壊兵器」がイラクに実在しなかったことを言い訳したり、無辜の民間人を大量虐殺して開き直ったりする超大国政府の態度よりは遙かに、とても「まとも」であるし、とても一貫性がある。

 もちろんこの物語が前提としているイスラムの常識と私の仏教のそれとは異なっており、到底受容できない部分も多々ある。しかし文化が違うのだからそれはあたりまえである。そういうところは想像力をたくましくしながら、文化人類学的なスタンスで読むのである。文化や思考回路の違いは対立の十分条件ではなく、むしろ相互理解と歩み寄りの必要条件なのである。

 なお興味深いのは物語本編だけではない。翻訳者は「はじめに」と「あとがき」で、「穴蔵からフセイン発見!」という超大国政府の創作したフィクションに反証を突きつけ、イラクで超大国政府が「超」大量破壊兵器と劣化ウラン弾を消却しまくりながら大量虐殺を繰り返している事実を指摘、何もかもを破壊するだけ破壊し尽くして逃げ去ろうとする無責任な超大国政府とそれに諾々と従うだけが能の日本政府のやり方に疑義を呈すなど、超大国政府のやり口を歯に衣着せぬ物言いで一刀両断に討ち取る。

 フセインは今まさに「東京裁判」以上に国際法違反で茶番劇な裁判で抹殺されかけている。世界はこのままで良いのか。真の「ならず者」は誰か。
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 裁判を見ているとわかるが、フセインには役者魂がある。この小説を読むとわかるが、文才もある。役者魂と文才をあわせ持つ大統領がいたのである。
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 筒井康隆に『くたばれPTA』という短編がある。『悪魔のダンス』の原題を見たときそれを思い出した。『農協月へ行く』とか『笑うな』とかと同じ時期に読んだと思う。永井豪とともにPTAが彼らの作品に対して「うにゃー」と言ってくるのに困っていたときに書いたものであったと思う。

 筒井康隆に限らず1970年代とか80年代の頃の「小説家」は社会の似非「良識」とか似非「常識」とかと果敢に戦っていたような気がする。それに較べると筒井にしても最近書くのは予定調和的なものに感じられる。『銀齢の果て』は多少すごかったが「多少」である。

 この小説、本当にフセインが書いたのだとすると恐るべきことだ。ブッシュとは比較にならないほど才能がほとばしっている。まあ、あんな人と比較してはフセインが可哀想なんだけども。

 彼がアメリカによって殺されることを避けるために我々は何をすべきなのか。


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サダム・フセイン「悪魔のダンス」を読んだ(大津留公彦のブログ2 2009-01-07 23:58)

サダム・フセイン「悪魔のダンス」を読み終った。 サダム・フセインがアメリカのイラク攻撃直前に書き上げていた小説。ヨルダンで刊行されるや、たちまち発禁になった問題の書

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